DXという言葉がかえって中小企業や農業経営体のIT活用・デジタル活用のブレーキとなっているのかも・・・

先日、ある商工会議所の経営指導員さんと意見交換している中で、こんな話題が出ました。

「DXという言葉がかえって中小企業や農業経営体のIT活用・デジタル活用のブレーキとなっているのかも・・・」

確かにその気配はあるのかもしれません。
IT活用といったりデジタル活用といったりDXといったりと、例のごとくこの業界の悪い癖で次から次に言葉が変わる。思い切ってツールを導入してみれば、なかなか活用に至らず、今一つ投資対効果を感じられない。しまいには、単なるデジタル活用はダメで、デジタル変革、トランスフォーメーションでなければならない、なんて論調が国の方からも繰り返し繰り返し投げつけられれば、「もういいや、うちはDXとか関係ないから」と拒否反応を示してしまうのもわからんでもありません。

DXの押しつけに辟易している、そういう感じでしょうか。

そんな中小ビジネスの現場は二極化していると感じています。
デジタル活用の効果をイメージできる経営体とイメージできない経営体。

拙著にも書きましたが、これはシンプルな要因で、経験があるかないかの違いに起因しているとみています。経営者が他の業界でデジタルを使って業務をしてきた経験がある企業はデジタル活用にすんなり進む。あいにくこれまでそういった縁がなかった企業はなかなかデジタル活用の効果をイメージできずに前に進まない。
知っているか知らないかで、経営にデジタルを取り入れるチャンスをつかむ企業とスルーせざるを得ない企業がある。

だからと言って、デジタルツールや技術を学ぼうというアプローチがあり、中小ビジネスでもデジタル人材が必要だなんて言って、プログラミングや統計分析を学ぼうとプログラムが組まれますが、中小ビジネスに本当にそういうデジタル技術を持った人材が必要でしょうか?結論としてはこれまた遠回りです。

これに対する私たちのご提案は、「カイゼン」を入り口にしませんか、ということ。

んん?「カイゼン」、使い古された言葉と思われるかもしれませんが、変化し続ける外部環境に対峙することのみが唯一の生存条件である経営においては、変化に対応して常にカイゼンし続けることは不可欠なマネジメントです。

こういうと、カイゼンでDXは実現できない、とか言い出す輩がいるのかもしれませんが、仮にそうだとして、だから何なのでしょう?カイゼンをしなくていいからDXをしろと言っている?これがイカンのです。
変革・イノベーションなんて、そうそう簡単に実現できるものでもないし、様々なファクターからチャンスを見つけ、出会い、成し遂げていくもの。ではそれまで何をしているか、変革をウンウンと毎日考えればいいのか?そんな無駄なことはありません。徹底して足元を見て、Ongoingの事業をさらに最良のものに、昨日よりも今日、今日よりも明日、と不断のカイゼンを実行していくなかで、もっともっとと執念深く、インテル創業者の本にあるように「偏執狂」かのように、自分のビジネスを徹底的にカイゼンしていく先に、事業の前提条件さえカイゼン対象として見直すことにつながり、結果として「変革していた」、これがトランスフォーメーションではないかと考えます。

あるいは、カイゼンなんてしているよ、と答える事業者もいるかもしれません。はい、カイゼンをしているのはいいことです、というか当たり前です。大切なのは、そのカイゼンをし続けることですね。そして、そのカイゼンサイクルの中に、デジタルという武器を取り入れる、そういうことをしてみませんかと。

中小企業や農業経営者と話をする中で、「デジタル活用の効果がイメージできない」という声を聞きます。
それは無理もありません。前述したとおり、デジタル活用した経験がないのですから、効果をイメージしようとしても難しいのが現実です。では、何もできないではないか、ではなくて、まずはカイゼンしてみましょうよ、そしてそのカイゼンの一部にデジタルを取り入れることを「後から考える」、そうすれば、何のためにデジタルを活用したいかが見えてきますので、それにふさわしいデジタルツールも探しやすくなります。

そう、「デジタル活用」とか「DX」を入り口にするのではなく、事業の「カイゼン」を入り口において、例えば新商品開発や在庫管理の精度アップ、人材の育成をまずは進める、これなら特にデジタルについて詳しくなくても前に進めますね。その上で、そのカイゼン活動の中にデジタルを取り入れられる場所を探す
伝える力、つながる力、回転力、基礎体力、体幹力。
はいそうです、デジタル5つの活かし方をそこで役立てていただきたいのです。カイゼンの延長線上でデジタルを活かす際に、この視点が発想の役に立ちます。ああ、そういうところでデジタルを使えばいいのか、進めているカイゼンの回転をもっと力強く回すためにデジタルの5つの活かし方の、デジトレ診断の100の設問の、少なくともどれか一つが寄与するはずです。

支援者の方々も、「デジタルツールの導入を支援する」ではなく「経営改善を支援する、その中にデジタルを取り入れる」そういう視点で進みませんか。当たり前のことですが、「デジタルツールの導入がゴール」ではなく、「経営改善がゴール」であって、経営改善を実現するための一つのツールとしてデジタル「も」使いましょう、ということですね。「デジタルを活用しよう」はむしろ出口にあたるので、入口(始点)で考えすぎない方が、自然体で、苦しくなく、経営体と向き合いやすくなるのかなと感じております。

 

デジトレ診断をバージョンアップしました

この度、デジトレ診断をより使いやすくバージョンアップしました。活用状況の診断にとどまらず、デジトレ活用に向けた次の取り組みにつなげやすくするための更新です。

デジタル診断のリリースから1年以上経過し、使っていただいた皆さまから多くの感想や反応をいただきました。その中で「診断結果をどう活かすか」という声が目立ちました。今回の更新では、次の活動のつながるデジトレ診断としてパワーアップさせています。

変更したポイントは次の3点です。

  1. 診断結果(スコアシート)に強化ポイント別の点数を表示しました
  2. 100の設問から3つの解説シートを選べるようになりました
  3. デジトレ診断の補足解説シートをわかりやすくしました

診断結果(スコアシート)に強化ポイント別の点数を表示

スコアシートのトップページに20の強化ポイント別の点数を表示し、次に強化するポイントをわかりやすくしました。

これまでトップページには、5つのデジタル力の点数と総合計が表示されており、自分の職場では、どのデジタル活用分野にどの程度取り組めているのかを定量的に把握することができました。
今回はこれに加えて、一つひとつのデジタル力を構成している「強化ポイント」の点数もあわせて表示し、相対的に点数の低い強化ポイントには色をつけてハイライトすることで、職場の課題を明確化し、改善のアクションに取り組みやすくしました。

100の設問から3つの解説シートのダウンロードが可能に

100の設問の中で、気になった・課題だと感じた設問を3つ選び、設問の解説シートをまとめてダウンロードできるようになりました。

デジトレ診断では100の設問自体がデジタル活用の取り組みのヒントになっていて、設問を通して気づきを得たり、社内の課題を発見したりできることが特徴の1つです。これまでは100の設問から1つのみ選ぶ方法でしたが、今回3つまで選べるようになりました。

3つに限定したことにも理由があります。中小ビジネスの場合、取り組む人員も予算も限られるため、課題を絞り込むことが非常に重要です。100も設問があるとアレもコレも、となりがちですが、多くても3つに絞り込むことで、重要な課題にフォーカスし、より効果的な取り組みにつなげてもらいたいという考えがあります。

デジトレ診断の補足解説シートをわかりやすくしました

デジトレ診断の5つの力の考え方を説明する補足解説シートを見直し、わかりやすくしました。課題の事例やデジタルの活かし方を記載し、自社に当てはめて考えられるようになっています。

デジトレ診断の使い方、自社の経営・組織を成長させるためにデジタルを組み込んでいってもらいたいと考えています。

ぜひ、新しいデジトレ診断を使っていただき、次の一歩に少しでも役立ててもらたら嬉しいです。これからもデジトレ診断では皆さまの意見を反映しながら、より使いやすく有用なものとして成長させていきたいと考えています。

以上

2021年、農業でのデジタル活用のトレンドは?

【中小ビジネスのデジタル化 2021年のトレンド予測 農業】

筆者自身が農業に従事していることもあって、ここ10年ほど農業でのIT活用、デジタル化、最近では「スマート農業」といわれる分野に携わらせていただいています。

TBSの日曜劇場「下町ロケット」がある意味で名刺代わりになったわけですが、自動運転トラクターや自動収穫機、ドローンでの農薬散布やリモートセンシング、田んぼの水管理の自動化システムなど、ロボティクス・IoT的な技術開発が大きく進んできました。

農業者の関心も高まり、さて、何からはじめようか、という段階が2021年なのかなと思います。5つのデジタル経営の目的の中から、特に農業で関心が高まるだろう3つを筆者の独断でご紹介します。

1.情報で会社の回転数を高める 【回転力】
省力化への関心は引き続き高まるでしょう。
人手不足やコロナ禍での農産物価格の低下もあり、低コスト経営の志向は引き続き強い。資材使用量を減らす、手間を減らす、効率を上げる。ここに新しいスマート農業技術が活用できないか?
メーカーへの問い合わせは増えるでしょう。どれくらい役に立つの?いま導入した方がいいの?本当に儲かるの?と。全国各地でのスマート農業実証の様子も動画でチェックできたりするので、ぜひ積極的に情報収集してみましょう。
回転力の強化のポイントは4つありますが、「管理水準を高める」ことが最も重要な点。農場の管理水準を一段階高める。どこの管理水準を高めますか?

2.社外との関係を拡げ、深める 【つながる力】
2021年も引き続きコロナ禍の影響はさまざまに出てくるでしょう。需給のミスマッチがあちこちで生じる。消費需要がゼロになるわけではないので、場面・形態を変化させた代替需要をしっかりつかんで少しでもカバーしたい、そういう思いではないでしょうか。
そんな中、2020年はD2C(ダイレクト・トゥ・コンシューマ)に注目が集まりました。ブームは落ち着いても、新しい消費スタイルに出会った消費者の一定割合は引き続き購買を続けるでしょう。クラウドファンディングもD2Cの一種でした。
2021年はもう少し大きめの量の取引ができるような需給マッチングの仕組みに期待が集まります。新しい需要を創出するプレイヤーが登場するでしょうから、そういう人達とつながれるかどうかがカギになります。
「つながる力」の強化のポイントは4つありますが、「顧客利便性」が最も重要です。SNSで情報を発信しているだけでなく、積極的に栽培データを提供して需要側に役立ててもらえるようなつながりを創っていきましょう。

3.情報で現場を滑らかにする 【体幹力】
2021年はあらためて体幹力の大切さが問われる年になると思います。
ロボトラやドローンのように華やかなスマート農業に興味を持つのは自然ですが、大きな投資をいきなりすべての農業者ができるわけでもありません。それでも、そういった新しい夢のある技術が刺激になって、さて自分の農場ではどうしようか、と自らを振り返る機会は増えるでしょう。そんな時にまずできることは、現場を滑らかにすること。
「滑らかな現場とは、迷わず、間違わず、し忘れることなく、誰かに聞かなくても仕事がスムースに進む現場のこと。」
なにも新しいソフトを購入しなくてもいいのです。「業務に必要な情報」を整備して、働きやすい現場を整えましょう。